三ヶ月坊主

個人的嗜好をSexyと戦わせるゆるオタク

(音楽文再録) POPをばかにするなら、東京を海に沈めてみせて 〜Sexy Zone『POP×STEP!?』より「Tokyo Hipster」〜

(2020年2月13日掲載)

 

 「東京/トーキョー/TOKYO」はエモい。なぜかその響きだけで、私たちの心を揺さぶる力がある。当然、これをテーマにする楽曲は数え切れないほどあるし、タイトルに含む楽曲だけでも相当数にのぼるだろう。と思って歌詞サイトで調べてみたら、「東京」で1000曲以上、「トーキョー」で70曲以上、「TOKYO」で300曲以上あった。私も好きな楽曲がたくさんある。その中では東京は、慣れ親しんだ故郷を離れて見上げる大都会であり、少し背伸びして憧れる流行の最先端であり、人と人の繋がりが希薄な無機質な場所であり、世界から人が集まるシティであり、猥雑で汚れていて星が綺麗に見えなさそうな街である。人があれだけたくさんいるから、その分切り口もたくさんある。アーティストにとってはきっとどれだけ料理しても足りない素材の宝庫で、聴き手にとっても各々の「東京」に対する感情を一個乗せられるから聴きやすい。

 Sexy Zoneも御多分に漏れず、2020年というこの年に合わせて、「様々なポップソングを『Sexy Zone』というフィルターを通して東京から発信する」(レコード会社公式HPより引用)というコンセプトのアルバム『POP×STEP!?』を発売した。東京という街が色々と注目されるこのタイミングを逃さないのは、良くも悪くもなんというかさすがアイドルだ。アルバム自体は、過去のシティポップや80年代アイドルや歌謡曲を思わせる楽曲から、これがいわゆる「チルい」ってやつか…と思わされるような浮遊感・未来感溢れる楽曲まで実に多彩なポップソングが詰まっていて、非常に満足度が高かった。tofubeatsやLUCKY TAPES、chelmico…と楽曲提供陣にも有名なアーティストがごろごろいる。

 しかし買って通して聴いた時、ちょっと驚いた。コンセプトに掲げ、ジャケットやMVでも強調している割に、歌詞で「東京」が直接的に描かれる曲が一曲しかないのだ。タイトルを「Tokyo Hipster」という。


 「Hipster」を辞書で引くと、「通/流行の先端を行く人」を指す俗語だという。インターネットで調べたら、「カウンター・カルチャーを好む人」「誰も知らないようなマイナーな音楽を聞いて、先取りしていると勘違いして、一般人を見下している人々というような意味合いを込めて使われている」(『NUNC』-「【スラング英語の教科書】hipsterの意味と正しい使い方」より引用)という言葉らしい。この時点で、アイドルからの皮肉がすごいな、と思った。ジャニーズやアイドルやJ-POP全般をやや軽く見ていた頃の私が見たらちょっとイラっとくるだろう。
 中高生の頃、あまりJ-POP(とされるもの)は好きではなかった。なんなら聴いている人はちょっとダサいと思っていた。そりゃ時々はいい曲もあるし、昔の曲なんかは逆にオシャレなものもあるけど、最近のは似たような曲ばかりでうんざりすると、自分からろくに探しもせずに辟易していた。感情を揺さぶられない・薄っぺらいと思っていた。"POP"ってどんな音楽なのか、どういう事なのか、分かりもしていなかったくせに。
 「Tokyo Hipster」を聴いていると、その頃の事を思い出すし、小さな事にこだわってばかだったなあと思う。ポルノグラフィティなどの楽曲提供でおなじみの本間昭光氏が作曲した、壮大な曲調の歌いだしはこうだ。

 "渋谷あたりは谷底で 銀座はまだ海だった 大切なのはSun, Sun, Sunshine 太陽!"

 あまたのアーティストが焦がれて、そこに生きるたくさんの人々を、その心を描いてきた「東京」、この街をこうも簡単に海に沈めた楽曲があっただろうか。後半に至っては海に対比して太陽である。スケールが大きすぎる。上記箇所だけでは意味が分からないと思われるので、更に何か所か引用する。

 "地下鉄などないし 貨幣なんて無かった"
 "石器時代に もしも僕ら 出会っていたら 愛してると 君になんて伝えていたの?"
 "アルタミラの壁画みたい あんなリアルな線を 渋谷の街に Dance, Dance, Dancing 描きたい"
 "僕らホモ・サピエンス そんなに生きてないさ"

 より意味が分からなくなったかもしれないが、要するに「東京」を地球規模・人類の歴史規模で、とんでもないスケールで捉えた楽曲なのである。それでいて、"素肌伝う汗に 生きてると思うのさ"といった具合に、カメラはぐっと対象に近づく。痛快だけど、なぜ?という思いもぬぐえなくなる。もっと普通に「東京」という街自体の持つ色々な顔を描く手もあったのでは?と。おそらく、その答えはこの歌詞にある。

 "流行り廃りあることは わかっててもその先を 目指してく 僕たちは 風を感じる 最後の地球人だからね Tokyo Hipster"

 あの頃の私は、POPってその時その時の人気を得る事ばかり追っかけている音楽だと思っていた。私の好きなアーティストがどんな時代においても変わらない、人の感情の機微や、純粋にクールな音楽を追求しているのとは真逆だと。

 そうではなかったと、今なら、この曲を聴いた後なら分かる。Sexy Zoneはこの曲で、人類が生まれてから今に至るまでずっと変わらないものを描きたかったのだろう。Hipsterは皮肉でもなんでもなかった。本当に「流行の先端を」「その先を」目指していくという、決意表明だった。
 そして、このテーマを一番説得力をもって伝えられるのは、愛を歌うアイドルの他ない。この壮大さに耐えられるのは、幼くして"時代を創ろうSexy Zone"とこれまたとんでもないスケールで歌いながらデビューしたSexy Zoneの他にはいない。石器時代についてだって、彼らは歌うのは初めてではないのだ。

 あの頃の私に伝えたい。食わず嫌いしていると、東京を海に還してしまう、よく分からないけど面白い人たちを見逃すよと。