三ヶ月坊主

個人的嗜好をSexyと戦わせるゆるオタク

映画『もっと超越した所へ。』感想(ネタバレあり)

 もっと超越した所へ、略称もっ超、もう観ましたか?私は最速試写会→小説版→2回目と観ました。小説版は電子版もあるので、映画前に1〜2時間もあれば読めると思います。映画観終わった方はぜひ。

 まだの方はネタバレを含むのでご注意ください。基本的にネタバレを読まないほうが絶対楽しく本作を観れます。よろしくお願いします。

 

 一言で言うと面白かったです。エンターテイメントでした。予告の感じから、めちゃくちゃスピーディーに話が進みそう…ついてけるかな…?と思ってましたが、前半は(テンポは良いんですけど)結構しっかりと各カップルの様子を描写していくので振り落とされる事がなく、後半は考えるな感じろ!の猛ドリフトで吹っ飛ばされる感じ。2回目は映画館でビール飲みながら観てましたが、行け行けゴーゴーと思いながら楽しく鑑賞できてとても良かったです。

 

 あーこういう人間いるいる……私にもこういうところあるある……というポイントが各登場人物に散りばめられているので、各人物にあまりフォーカスしすぎても意味ないのかもしれませんが、でも語りたくなるというか自分の意見を整理したくなる映画でした。という事で、各人物についての感想。

※小説版を読んでの感想も含みますが、小説版は各人物の過去設定や映画で描かれなかった視点の補完という感じなので、重大なネタバレは含まれていないと思います。多分…

 

■真知子

 人のもの漁っちゃだめだよ……気持ちはよく分かるけど……あの局面だともう漁って探るしか打開策ないような詰んだ状況ですが、あの前にちゃんと落ち着いて不安などを話し合えていればそこまで追い詰められる事もなかったのでは……

 怜人は性格上か前回の事もあってか、感情的に追い詰められるとイヤイヤモード一択になってしまうようなので(めちゃくちゃウザいな)、冷静に話していればのらりくらりかわされつつも一応話し合いの体にはなったんじゃないかな、と思います。あそこまで拗れたのは、自分の考えや気持ちを言葉に出して伝えていない真知子にも責任はあるような……

 自分の罪を「顔がカワイイからと流されたところ(要約)」と真知子は言ってましたが、それ自体というよりは流された後に相手にうまく伝えられていないところが一番問題だったんだろうな、と……流されるのはしょうがないし、まさかあそこまで色々問題を抱えている男だと初見で見抜けないのも(特に小説版で分かる真知子の背景を考えると)しょうがないので。

 色々と溜め込みやすい性格だと損するんだなあ、と思わされたキャラでした。富への発言(仕事仲間へのセクハラでしょあれ)も我慢を溜め込んでしまった結果ですし……

 

■怜人

 追い詰められた時のイヤイヤモードがシンプルにウザすぎた。あと相手の都合を全く考えずに自分の都合をガンガン押しつけてくるところ、距離の詰め方、家賃払わないところ(今の部屋は真知子がもともと払ってたんだから損してないしいいじゃん理論、通じるわけねえだろ……真知子も何流されてんだ……)、などなど初見時から小説版読んで2回目観た今に至るまで一貫して一番嫌いなキャラでした。演じ切った風磨くんは本当にすごい。

 男性陣は小説版で男性視点の補足があったので、そこでちょっと気持ち分かるな……となったキャラもいるんだけど、怜人に関してはほぼならなかった。最初の彼女については可哀相だったね、とは思うけど……結局その後も会っとるやないかい!!!!!ただ、映画を観た段階では「これ下手したら真知子の事最初から最後まで別に好きでもないのでは?利用してるだけでは??」としか思えなかったんだけど、一応そうじゃないよというのが分かったのは良かった。

 作中で「嫉妬深いのは暇だからでは?」と真知子に指摘されていたけど、最初の彼女の時点で既に嫉妬深いと言われていたので(これは周りの性道徳のラインによる気もするが)、嫉妬深い事自体は怜人本来の性格だと思う。それ自体は需要と供給が一致してれば別に問題ではないな、と感じた。

 怜人の性質が悪いのは、自分がクズである事を自覚しつつ直すつもりが全くない事。今回のラストで今後変わればいいけど、最後の最後まで「時間はかかるかもしれないけど〜」と予防線を張っているあたりにマジでイラつかされた。

 

■美和

 キレ方が正論でブチギレてくるパワータイプだから深い仲の友達になって意見がすれ違った時は大変かもしれないけど、ちゃんと自分の考えを持っていて主張できるタイプなので友達にしたら楽しそう……と思いました。「彼氏に染まるギャル」って紹介だったけど毎回毎回そういうわけではないんだな、というのが怜人との関係で分かって面白かった。それとももしかしたら怜人との関係の終盤には他に好きな人がいたのかも(怜人の様子見ると服装が当初と激変してるっぽくて、かつ泰造の時とも毛色が違うので)……と邪推しちゃったけど、そうじゃありませんように……

 泰造との関係においては全然美和に悪いとこなくない???(友達?) 本人は「黙って元彼にお金振り込んでた」のを悪かった点として挙げてて他の三人から"一番悪い"とされてたけど、自分の稼ぎ内でやってる事だしそれで生活が圧迫されてないなら個人的には別に良いかな……まあさすがに2年は長いし、もう怜人に最後通牒突き付けといた方が色々と良かったとは思うけど……

 ただ、あんなに泰造と仲良さそうだったのに、怜人への振込みの件を相談できなかった(振り込むに至った経緯は別に美和は悪くないんだし、伝え方に気をつければむしろ美和の味方してくれそうな気もする)あたり、その程度の関係だったのかな……と切なくなった。前半の美和と泰造のやり取り、死ぬほどバカだけど幸せそうで結構好きなんですよね。だから余計に……

 

■泰造

 前半と後半で印象が激変したキャラ。前述の通り前半は、底抜けにアホだし、自己中な感じはあるし、(小説版ではオリジナリティを主張しながら有名人の言葉をめちゃくちゃ引用するなど)ダサいけど、美和がそれを受け入れてて幸せそうなのでそこは別にいいのでは。嬉しい?のカツアゲシーンも、美和に喜ばれて感謝されるのが泰造にとって嬉しい事、という事なので個人的には微笑ましかったし……(小説版だと映画より若干嫌な描かれ方されてたけど泰造にそんなつもりがあったのかは分かんないし……)

 後半はもうあれ、日本の教育の敗北。お前もう25歳だろ!!!!!と肩を掴んで揺さぶりたい。1回目も揺さぶったけど。10000歩譲って未成年で2回目の反応ならまあテンパるの自体は分かるわ……なんだけど、25歳で2回目ですから……

 唯一救いがあるとすれば、泰造はこれまで確実に妊娠というものを自分事として真剣に捉えていなかったわけで(1回目で身に沁みとけよという話ですが、あの時は即逃げちゃったので……)、今回はせっかく逃げずに済んだんだし、これを機に美和が骨身に叩き込めば0.008チャンぐらいは更生の可能性があるとこですかね……いや更生しても1回目の事なかった事にはできないけどな!覚えとけ!!!!!

 徹底的にデリカシーがないし底抜けのバカだけど、その場だけいいように誤魔化してこっそり逃走するような悪意は抱いてないし……「親になんて言うかめっちゃ考えてた」で考えてた言葉が、1回目とは違って親に真実を報告する言葉である事を祈るばかりです。

 

■鈴

 途中まで一番感情移入して観てて、他人の顔色を伺いながらコミュニケーションしちゃうところとか分かる〜〜!と思ったし、この子富の事が好きなんだ……と気付いた時はちょっと泣きそうになったのに、富に勝手にキスした瞬間ハ?それは違うやろがのアツい掌返しした。それは別に私の中の片想い描写における癖ガイドラインに抵触したからではなくシンプルに性暴力やろがい同意のないあれそれは!という理由です。関係が壊れる覚悟をしてしたわけでもなさそうだし……これが「関係が壊れる覚悟で(言葉で)告白する」なら片想い描写好き好きストップ高なんですが……実際、鈴としては"仲の良い友達"という立ち位置しか持っていなくて、今は幸せに暮らせていても将来も一緒にいられる保証が何もないという非常に不安定な状況なので、暴走しちゃうのはすごく良く分かるとはいえ……

 だからその後の口論シーンで被害者面してるのがどうも受け付けなかった。どっちかというと関係ぶっ壊して富を出て行かざるを得なくさせた加害者の立ち位置にいる状況である……という事は自覚してて欲しかった。そこに至るまでの気持ちの動きとしてはすごく共感できるだけに、余計に……

 慎太郎との関係は鈴が悪い点は全くなかったと個人的には思うし、へこたれずにずっと仕事を頑張っているという点においてめちゃくちゃ尊敬できるので、人物としてはかなり好きです。

 

■富

 他の三人の男性陣と同じくくりでいいんだろうかこれ……という戸惑いを呼ぶキャラ。甘ったれで自己中だけど、それで鈴とうまくやれてるんだから別にいいのではpart2。誰かに好きになられてしまう事も、それを自覚してちょっと利用してしまう事も、別に罪じゃないだろう。特に真知子の時の利用具合なんて、真知子のセンスと仕事に惚れ込んだ事自体は本当だったわけだし、せいぜいSNSのフォロワー増やしたいな〜(小説版)というよくある打算程度で、個人的には全然問題じゃないと感じた。むしろ仕事と友情の関係に恋愛を持ち込んでぶっ壊したのは真知子のほう。(真知子の偉いところは、ちゃんとそれを自覚しててすごく自己嫌悪していたところだとも思う)

 試写会後の監督と根本さんのトークショー・質疑応答で富が綺麗事で関係を終わらせようとしてたのが各所からぶっ叩かれてましたが、富視点だとしょうがないような気も……だって富からしたら恋愛じゃなかったわけだし……いやまああの空元気な伝え方はデリカシーねえなあとは思ったけど……でも確かに真知子や鈴に友情を感じていたが故の言葉であってさ……(以下略)

 なので正直かなり終盤になるまで、全然クズじゃねーぞこれ……と困惑してたんですが、ブチギレた後のあのくだりでだいぶガクっと印象が下がった。子どもが欲しいが為に鈴の人生を勝手に利用しようとしていたところ、そしてそれを本人に告げてしまうところで、あ〜こいつのクズ要素はここか……と納得。

 実際現実でもゲイ男性の結婚問題というのはあるようですが、あくまで富と鈴の場合、お互い好意は確かに抱いているわけで、富から鈴への好意が恋愛感情でなかったとしても、それを誰にも言わず墓場まで持っていき死ぬまで鈴と幸せに暮らせた場合は、それは責められるべき事なのか……?というのを考えさせられました。まあ実際は本人に言っちゃってるんだけど。言うならやるな、やるなら言うな。

 今後この先富の性的指向が変わる事はおそらくないわけで、これから先の人生をどうしていくのか、きちんと二人で話し合えないとハッピーエンドには辿り着けない気がします。それでも他の組よりは確率高いかもしれないのが恐ろしい…

 

■七瀬

 付き合うなら絶対七瀬だが?むしろこちら(どちら?)に都合が良すぎるように描かれている気がして不安にすらなる。それは彼女の生い立ちから来る確固たる彼女の価値観によるものだ、というのが小説版を読むと分かるのだが、映画だけ観た人には"都合の良い女像"みたいな感じで批判的に言われないか不安。違うんだよ七瀬は……分かってんだよ七瀬は……

 ただ小説版に出てくる七瀬の初彼しかり(←この人地味にかわいそうすぎない?)、七瀬と深く付き合っていくと、うまく喜んでもらえなくてどんどん不安になっていくかもしれない。まずい、七瀬と付き合うのに自分は相応しくない気がしてきた……

 なんでも受け入れるわけではなく、怒りの感情やスイッチ自体はしっかりあるタイプなので、慎太郎はもう本当に芯から根性叩き直して頑張ってほしい。お前が七瀬を幸せにすんだよ(根性焼き)

 

■慎太郎

 映画だと自分がクズである事を自覚してるのかどうかいまいち分からなかったので、男性陣では個人的に小説版の補完を受けて一番株が上昇したキャラ(といっても本当に微々々たるものですが……)。鈴との喧嘩シーンは、もちろん小説版でも慎太郎が100%悪くてDV野郎なんだけど、だいぶ切なくなった。

 慎太郎のダサさはこれまでの境遇から後天的に形成されてきたもので、同情すべき点は結構あるはずなのにあまりそう見えずただただダサいのは、泰造や富と違ってそのダサさズルさが真に相手に受け入れられている描写がないからかな…と思った。まあ富と鈴は鈴が好き故に飲み込んでる部分はだいぶあったけども。慎太郎と七瀬の場合、まず慎太郎がきちんと開示していないので七瀬にそのダサさがちゃんと伝わっておらず、だから誰もダサさを受け止めておらず、観ている私たちに「うわこいつダッセェ……」がダイレクトアタックしてくるのがいけないと思う。

 他の登場人物のラストシーンは、その場ではなんの変化もしていない他の男性陣はもちろん、女性陣も「妥協して飲み込む」というある意味後ろ向きな選択をしただけとも言える。だが慎太郎は、(だいぶ受動的ではあるけど)明確に「風俗嬢からの評価なんて要らない!というプライドを折る」という変化をラストシーンで遂げた。元々チョコを準備してきて渡す、タブレットを機械に疎い七瀬でも打ち込みやすい状態にしてから渡す、などの細かい気遣いはできる男なので、今回を機に頑張ってほしい。

 

 

という事で、クズ順位付けしようにもベクトルが全然違いすぎてお手上げでした。試写会だと終わった後に「一番共感できた人物」「一番共感できなかった人物」を問われたんだけど難しすぎない?私はその場では前者に富・後者に怜人を書きましたが、多分その時の気分次第で答え全然変わりそう……

 

余談:最後の展開を受けて ここから先は作品の重大なネタバレを一部含むのでここまでうっかり読んでしまった未視聴者は速やかに引き返してください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終盤、部屋がセットになっていてセットぶち破ったあたりで高笑いが止まらなくなった(心の中で)んだけど、試写会後のトークショーで監督が言っていた言葉が印象的でした。

 実は細かい流れは忘れちゃったんですが、確か観客との質疑応答で「なんで最後セットを超えるようなあの演出にしたんですか?」という質問を受けて、監督が原作舞台版の演出について話して、その後の言葉だったと思う。多分……。

 

「あなたのおうちも、実はセットかもしれませんよ」

これを聞いた瞬間、私が学生時代を過ごした実家の、今住んでいるマンションの部屋の、その時いた映画館の壁が、ゴゴゴと引き抜かれて丸裸にされて風が吹き抜ける妄想が頭をよぎったのをはっきりと覚えている。あれもあれもあれも、今観たばかりの映画と同じように人と人とのぶつかり合いで、今観た映画の中の話は私の人生と地続きのどこかにきっとあるんだとなんだかすごく実感(錯覚)させられた。

 そんな妄想をして、映画館を出て、夜の渋谷の街中に放り出されたのがとっても楽しかったです、という映画でした。