三ヶ月坊主

個人的嗜好をSexyと戦わせるゆるオタク

それでも『MELODY』を歌うSexy Zoneを信じただけの話

その日は充実した休日だった。散々な一日だった。

わりと早起きして、たまっていた家事を片付けた。ご飯も炊いたし掃除もしたし洗濯もした。花の水も替えた。昼には前の日の鍋を食べながら、夜に何を食べるかレシピを考えた。

所属しているオーケストラの演奏会本番が中止になった連絡が来た。練習もしばらく再開の目処は立たないという。ツアー公演中止の発表がされた時には、国内の移動だしもしかしたらもうちょっと事態がマシになって訪ねるぐらいは出来るかもしれない、と思ったので押さえたままにしていた福岡のホテルにキャンセルの連絡をした。ネットでやろうと思ったらじゃらんからのメールにはキャンセルに必要な認証キーとやらが書いていなかった。怒りながらサイトを確認したら、じゃらん経由でキャンセルできる締切はとうに過ぎていた。反省してホテルに電話を入れた。フロントのお姉さんは慣れた様子でスムーズに対応してくれた。飛行機はLCCなのでキャンセルできず、今もそのままだ。

 

夕飯のレシピを考え終わった後、前の日の鍋を食べながら、残念だけどしょうがないな、と思った。セクゾの公演という、関わるお金も人も莫大なプロジェクトが飛んでしまうんだから、プロですらないアマチュアの団体の年に数回ある演奏会なんて、この騒動の前にはひとたまりもないよなと思った。でも自分でも驚くことに、とても残念だった。今回やるはずだった曲は全て私は初めてやる曲で、もしかしたらもう二度とやる機会はないかもしれなかった。年に平均して3回ほど演奏会があって、各演奏会につき2〜3曲ほどやるけれど毎回全曲に私が出られるわけではないからここでは1回の演奏会につき2曲として、1年で6曲、これから出来る限り長く休みなくオーケストラを続けたとしても私の体力的に60歳あたり超えたら限界だろうからあと約35年×6曲で私がこれから人生でやれる曲はMAXで210曲、実際はライフプランの都合やら仕事の都合やら今回のように演奏できる場がなくなったりやらで本当にやれる曲はおそらく半分以下の100曲程度、星の数ほどあるクラシック曲の中で、今回やるはずだった曲に再び巡り合う機会ってあるのだろうか、そんな事を考えていた。全く練習熱心ではなくて、ただ学生時代の思い出を繋ぎ止める趣味程度に参加している私でも、このぐらい機会損失を惜しむんだと思ってびっくりした。演奏会が終わった後に、いつもの事ながら軽く達成感に包まれて飲むはずだったお酒の事を考えた。失われてもう二度と戻らない時間の事を考えた。Sexy Zoneのメンバー達も似たような事を感じただろうかと思って、やりきれなくなった。

 

やるべき事を早々に終えてしまい16時からのジャニーズによるYouTube配信まで暇だったのと、せっかく部屋を片付けたので、部屋の写真を撮りブログを書いた。書いている間は楽しかった。パックだけどおいしいコーヒーを煎れ、お菓子を用意し、15時半にはYouTubeをつけてテレビの前に座った。夕方におやつを準備してテレビを(厳密には違うけど)観るのはいつぶりだろうと思った。カウントダウンはまるで本当のコンサート開始前のようで、胸が高鳴った。

 

手洗いについての歌とダンスと、後は各グループごとまたは合同のトークパートがあって、それで終わりだろう、そう予想していた私の横っ面を張るように、一面のペンライト…のような電飾が広がって、『Sexy Zone』(通称"(曲)")イントロの爆音とともにSexy Zoneが現れた。興奮してペンライトを頭上に高々と掲げて、これが出来るのだけは実際のコンサート会場より良いかもなと思った。ケンティーは最初の挨拶で「日本を、世界を、元気にしまーす!」と力強く言い切った。それだけで、今日という日があって良かったなと思った。

新曲の『RUN』も聴けた。先日のPremium Musicでの初披露が鮮烈だったけど、強風に晒されながらもがくようなこの曲は、今のこの状況にぴったりな曲だなと感じた。

 

風磨くんが「一緒に歌って」と言った。

 

まさか、まさか、私が行くはずだった、今日ホテルをキャンセルした、飛行機はキャンセルできなかった、特定の誰かの音楽のために遠くまで行くというはじめての経験になるはずだった、福岡公演で聴くはずだったあの曲、いやこの流れなら『ぎゅっと』かもしれないし、でも私は、Sexy Zoneがこの日この場できっと必ずあの曲を歌う事をどこかで知っていたーー

大好きなイントロの音が流れないから、吸う息の音が聞こえるまでの一瞬がとてもとても長く感じられた。アカペラで歌い終わって、やっとイントロが流れ始めるまで、私の頭は目まぐるしく動きながら停止していた。

Aメロを聴きながらやっと、Sexy Zoneが今日という日に、ここまでのツアーが全部全部中止になってファンの誰も会えなくなったSexy Zoneがファンと、ファンでない人と全てに想いを届けるこの日に、この曲を選んでくれた事の喜びがこみ上げてきた。

僕が毎日歌ってる

歌を君に教えよう

心がすっと軽くなる

そんな歌を教えよう

の歌詞通り、心を軽くしてくれて、

人に怒らず 無駄に焦らず

生きるのは難しいね

でも少しでも できることはやってみよう

君ならできるはず

の"君ならできるはず"でぐっと心を支えてくれた。

 

風磨くんは「一緒に歌って」と言った。なら歌ってみようと思った。近所迷惑にならない程度に、ささやかに。

サビを口ずさんでいた。

メロディが君と僕を繋いでる

見えないけどね 不思議

 

見えないメロディと、音楽の事を考えた。気心知れた人たちと私で作るはずだった音楽、はじめて会う人たちと遠い地で触れるはずだった音楽、誰も悪くない理由で全て失われた音楽、全然、全然"しょうがない"なんて言葉で諦めたくなんてなかった音楽、"しょうがない"を飛び越えて私に届けてくれている音楽、こうして届くだけで私に涙を流させる、音楽の事。

 

音楽を、それにまつわる時間を失った事への悲しみに寄り添ってくれるのは、やっぱり音楽だった。

きっと『MELODY』を歌ってくれると、信じていた。